埼玉企業法務研究会トップページ > 活動報告 > 2016年度 >2016年7月14日発表
労働審判制度 (弁護士 丸山博久)
第1 制度目的
1 労働審判法1条
①労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(「個別労働関係民事紛争」)に関し,
②裁判所において,裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が,当事者の申立てにより,事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,
③その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。)を行う手続を設けることにより,
④紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図る。
2 特徴
(1)迅速な紛争解決
原則として,3回以内の期日で審理を終結しなければならない(労働審判法15条2項)。
(2)適正な紛争解決
労働審判官(裁判官1名)と労働審判員(労使から各1名)の3名で労働審判委員会が構成される(労働審判法7条)。
(3)柔軟な紛争解決
調停が成立しない場合に出される審判においても,通常訴訟ではできない柔軟な解決を示すことができる。
・労働審判法20条
1項
「労働審判委員会は,審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて,労働審判を行う。」
2項
「労働審判においては,当事者間の権利関係を確認し,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命じ,その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。」
(4)紛争解決の実効性
審判が出されてから2週間以内に異議が出なければ裁判上の和解と同じ効力を有する(労働審判法21条4項)。
第2 申立
1 対象事件
個別労働関係民事紛争(労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争)に限られる(労働審判法1条)。
集団的労使紛争(×「個々の労働者」),公務員の任用関係に関する紛争(×「民事に関する紛争」),労働者間の紛争(×「事業主」との紛争)は,対象とならない。
2 管轄
(1)事物管轄
訴額にかかわらず全て地方裁判所となる。
(2)土地管轄
① 相手方の住所,居所,営業所若しくは事務所の所在地を管轄とする地方裁判所
② 個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する裁判所
③ 当事者が合意で定める裁判所
※支部では,東京地方裁判所立川支部,福岡地方裁判所小倉支部を除き,労働審判を実施していない。
埼玉では,本庁の第5民事部のみで行われている。
3 申立費用
(1)申立手数料
民事調停の場合と同一の額(労働審判法附則3条)
※労働審判に対して異議が出される等により,通常訴訟に移行した場合は,労働審判申立時に収めた印紙額を控除した残額を納付する。
(2)予納郵券
埼玉の場合 合計3000円
(内訳)
500円×4,100円×5,82円×2,50円×3,20円×5,10円×6,2円×8,1円×10
4 申立
(1)申立方法
申立書を裁判所に持参又は郵送で提出する方法による。
申立書は,裁判所に提出する正本の他に,相手方の数に3を加えた数の写しを提出しなければならない(労働審判規則4項)。
(2)記載事項
ア 申立書冒頭(労働審判規則9条1項,非訟事件手続規則1条)
①事件名,②提出裁判所名,③提出年月日,④申立人及び代理人の氏名・名称・住所・郵便番号・電話番号・ファックス番号,⑤相手方の氏名・名称・住所,⑥申立の価格,手数料額
イ 申立ての趣旨(労働審判法4条3項2号)
ウ 申立ての理由(労働審判法4条3項2号)
エ 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実(労働審判規則9条1項1号)
オ 予想される争点ごとの証拠(労働審判規則9条1項2号)
カ 当事者においてされた交渉,その他申立てに至る経緯の概要(労働審判規則9条1項3号)
キ 付属書類の記載
第3 手続の流れ
1 申立て後から第1回期日前まで
(1)第1回期日の指定
申立がなされた日から40日以内に指定される(労働審判規則13条)。
※通常の訴訟の場合は,提訴から30日以内の期日指定
(2)呼出し,送達
※さいたま地裁の場合
当事者双方の同意があり,期日変更申出が期日直前でなく,相当期間内に変更期日が入れられ,労働審判員が出頭可能である場合には期日変更ができるとする運用がされている。
(3)答弁書の提出
ア 答弁書の記載事項(労働審判規則16条1項)
(ア)答弁書冒頭
(イ)申立の趣旨に対する答弁
(ウ)申立書に記載された事実に対する認否
(エ)答弁を理由付ける具体的な事実
(オ)祖予想される争点及びその争点に関連する重要な事実
(カ)予想される争点ごとの証拠
(キ)当事者間でなされた交渉やあっせんその他申立てに至る経緯
イ 注意点
民事訴訟法の適用がないため,擬制陳述はできない。
「追って」の答弁書は許されない。
ウ 提出方法
裁判所の他,申立人に直送する(労働審判規則20条3項)。
(4)補充書面の提出
相手方の答弁に対する反論は,原則として,期日において口頭でする(労働審判規則17条1項本文)。
相手方主張に対する不明点や予想されていた論点を超えるような新たな論点が答弁書で提示された場合等については,第1回期日前に補充書面を出すのが望ましい。
2 第1回期日
(1)争点及び証拠の整理(労働審判規則21条1項)
(2)可能な証拠調べ(労働審判規則21条1項)
書証のみならず,人証も行われる。
(3)調停
(4)相手方が不出頭の場合
労働審判法に定めはなく,労働審判委員会の判断に委ねられる。
3 第2回期日
(1)争点及び証拠の整理,証拠調べ
主張及び証拠書類の提出は,労働審判手続きの第2回の期日が終了するまでに終えなければならない(労働審判規則27条)。
(2)調停
4 第3回期日
(1)調停
(2)結審と労働審判の告知
第4 労働審判の効力と異議
1 労働審判の効力
労働審判は,2週間以内に異議が出なければ,裁判上の和解と同一の効力が生じる(労働審判法21条4項)。
2 異議が出された場合
(1)適法な異議の申立てがあったときは,労働審判はその効力を失う(労働審判法21条3項)。
※異議申立期間は,審判所の送達若しくは審判手続における口頭での告知を受けた日から2週間以内(労働審判法21条1項)。
※異議申立には,理由を付ける必要は無く,「不服であるので,異議を申し立てる」という記載のみでよい。
※異議申立は,ファクシミリによることはできず,裁判所に提出する必要がある。
(2)適法な異議の申立があったときは,労働審判に係る請求は,労働審判の申立時点で,当該労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされ,当該地方裁判所に係属する(労働審判法22条)。
※労働審判の申立書,申立の趣旨変更申立書は訴状とみなされるため,改めて訴状を作成する必要は無い(労働審判法22条3項)。
※申立書以外の主張書面,証拠は新たに提出しなければならない。
以上