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活動報告Activity Report

埼玉企業法務研究会トップページ > 活動報告 > 2016年度 >2016年9月12日発表

ストレスチェック(弁護士 高野 哲好)

第1 労働安全衛生法とストレスチェック
 1 労働安全衛生法の基本的枠組み
 (1)法の目的と性格
   【労働基準法】
   第1章 総則
(労働条件の原則)
第1条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
○2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
(労働条件の決定)
第2条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
○2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
(均等待遇)
第3条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
 第5章 安全及び衛生(42条~55条)
   42条 労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生法 (昭和四十七年法律第五十七号)の定めるところによる。
   43条から55条まで 削除
   第11章 監督機関
   
   【労働安全衛生法】
   第1章 総則
(目的)
第1条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
    ※下線部は、労基法と基本規定(1~3条)や監督機関(第11章)
     を共有する同法の附属法であること、労働時間・休憩・休日・休暇などの労基穂の基準が労働者の安全・衛生の確保に役立つものであること、労基法の中にも労働安全衛生に関する記述が残されていることなどの意味を込めている。

    ※労安衛法は、労働契約関係において使用者が遵守すべき安全衛生の最低基準を定立するにとどまらない
     ・職場の安全・衛生のために、危険な機械・有害材料の製造・流通過程の関係者や危険な工事の元請事業者・注文者等に対し罰則付きの義務
     ・職場の安全・衛生の確保と労働者の健康の増進及び快適な職場の形成のために事業主に対し、種々の努力義務
     ・これら目標のための厚生労働大臣による労働災害防止計画の策定や国による事業主等への支援措置
     労基法よりも広範・多様・高度の法規制

     労基法や最賃法のような労働契約に対する直律的効力規定せず(直律的効力⇒労基13条「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」、最賃4条2項)

 (2)基本概念
   「労働災害」 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう(法2条1号)。
    ※「労働災害」を業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することととらえる
     労災補償の対象となる「業務災害」概念と一致
     時間的場所的に識別できる出来事(事故)を識別できない(被災害性の)負傷、疾病、死亡も含まれる

 (3)労働安全衛生の関係者の責務
   事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない(法3条)。

 2 安全衛生管理体制
 (1)産業医
   常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、産業医の選任義務(法13条、労安衛令5条)
   【職務】 ①健康診断・面接指導の実施並、作業環境の維持管理、作業の管理、健康教育、衛生教育、労働者の健康障害の原因の調査・再発防止など事項で医学に関する専門的知識を必要とするもの(労安衛則14条1項)
   ②週単位の労働時間外労働が1か月100時間をこえ疲労の蓄積が認められる労働者に対する面接指導とその結果に基づく当該労働者の健康保持のための措置に関する意見具申(法66条の8,9)
   ③ストレスチェック等(法66条の10)
   【権限等】 労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができ、事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない(法13条3項4項)

 3 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置
(1) 事業者に対する規制
(2) 労働者に対する規制
(3) 請負関係についての規制
 4 機械等及び危険物・有害物に関する規制
(1) 機械等に関する規制
(2) 危険物及び有害物に関する規制
 5 労働者の就業に当たっての措置
(1) 安全衛生教育
(2) 就業制限
(3) 就業上の措置
   事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない(法62条)

 6 健康の保持・増進の措置
(1) 作業環境管理
(2) 作業管理
(3) 健康管理
 ア 定期健康診断・特殊健康診断
   事業者は、労働者に対し、医師による定期的な一般健康診断(法66条 1項)と、一定の有害業務に従事する労働者に対する医師による特殊健康診断(法66条2項)を実施しなければならない。
  事業者は、労働者に対し、当該健康診断の結果を遅滞なく通知しなければならない(法66条の6、労安衛則51条の4)。
  事業者は、健康診断の結果の異常所見に対する事後措置について、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならず(法66条の4)、
  事業者は、この意見を勘案し、必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境の測定、施設又は設備の設置・整備、その他の適切な措置を講じなければならない(法66条の5)
    ※上記使用者の事後措置義務は、労働者が使用者に対して履行を請求できるような具体的義務でない(罰則ない)
     健康診断の実施に従事した者 守秘義務(法104条) 
     医師の秘密漏えいは、秘密漏示罪(刑法134条1項)

    ※健康診断と受診義務
     労働者に受信義務(法66条5項)罰則なし
     医師選択の自由(同項ただし書)
     労安衛法上の健康診断医該当しない法定外検診
     →受診義務を認めた判例(電電公社帯広電報電話局事件 最1小 判昭61・3・13)
 イ 健康管理手帳
 ウ 健康増進の努力義務

 エ 過労死対策
   事業者は、週単位の労働時間外労働が1か月100時間をこえ疲労の蓄積が認められる労働者に対して医師による面接指導を行い、その結果を記録しなければならず、労働者は面接指導を受けなければならない(法66条の8第1~3項)。事業者は医師による面接指導の結果に基づき又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴かなければならず(66条の8第4項)、その意見を勘案して必要ありと認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければならない(同条5項)。

  オ メンタルヘルス対策
   平成26年法改正
   常時50人以上の労働者を使用する事業主 ストレスチェックを毎年実施する義務(法66条の10)

第2 メンタルヘルスチェック(法66条の10)
 1 目的
   精神疾患の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止

 2 ストレスチェックの実施
   事業主は、1年以内ごとに一回、定期に、労働者に対し、①職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目、②当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目、③職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目について、医師または保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行わなければならない(法66条の10、労安衛則52条の9、10)。
   労働者に応じる義務なし

3 検査結果の労働者への通知
   事業者は、検査(ストレスチェック)を受けた労働者に対し、当該検査を行った医師等から当該検査の結果が遅滞なく通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の書面または電磁的記録による同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない(法66条の10第2項、労安衛則52条の12・52条の13第1項)。

4 検査結果の集団的分析
   事業者は、検査を行った場合、当該検査を行った医師等に、当該検査の結果を当該事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならない(労安衛則52条の14第1項)
   事業者は、分析の結果を勘案し、その必要があると認めるときは、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければならない(労安衛則52条の14第2項)

5 面接指導の実施
   事業者は、3の通知を受けた労働者であって、検査の結果心理的な負担の程度が医師による面接指導を受ける必要があると当該医師が認めた者が、検査結果の通知を受けた後遅滞なく面接指導を希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、遅滞なく面接指導を行わなければならない(法66条の10第3項第1文)。
   この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない(法66条の10第3項第2文)
   検査を行った医師等は、面接指導が必要と認められる労働者に対して、申出を行うよう勧奨することができる(労安衛則52条の16第3項)

6 労働者の健康保持に必要な措置の実施
  事業者は、面接指導が行われた後遅滞なく、面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければならない(法66条の10第5項、労安衛則52条の19)
  事業者は、上記の医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない(法66条の10第6項)

7 守秘義務
  健康診断等に関する秘密の保持(法104条、罰則は119条1号)
  医師は秘密漏示罪(刑法134条)


第3 労安衛法の規制の実施
1 安全衛生改善計画
2 監督体制
労安衛法の施行事務は、労働基準監督署長及び労働基準監督官が担当(法90条)
労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる(法91条1項)
厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる(法100条1項・3項)
3 罰則
刑罰規定 故意犯
行為者が法人の代表者または法人若しくは人(事業者)の代理人、使用者その他の従業員である場合には、その法人または人に対しても罰金刑(法122条)
以上




埼玉企業法務研究会

(Saitama Corporate Legal Affairs Association)