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会社支配権の争い (弁護士 高野 哲好)
第1 支配権争い
1 事例設定
甲社 創業30年の中小企業、株券を発行しない旨の規定ない、株式全部に譲渡制限、取締役会設置会社(取締役3人、監査役1人)
取締役の任期は2年
【YはⅩを追い出し、自らが代表取締役になり、P及びQをⅩ及びZに代わる取締役にしたい】
2 Yによる議決権の過半数の把握
取締役の選任解任は株主総会の権限(329条1項、339条1項)
(1)BCDについて
ア BCDに対する説得
イ 買取りを求められた場合
株式譲渡の要件について検討
(ア) 株券関係
a 株式譲渡の効力要件
(a)株券不発行会社の場合
(b)株券発行会社の場合
自己株式の処分以外、株券を交付しなければ譲渡の効力が生じない(128条1項)
→ 株券発行会社であるか否かについて(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律76条4項)
(株式会社の定款の記載等に関する経過措置)
4 旧株式会社又は第六十六条第一項後段に規定する株式会社の定款に株券を発行しない旨の定めがない場合における新株式会社の定款には、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定めがあるものとみなす。
b 株券発行会社であるにもかかわらず、株券の発行がなかった場合
(a)株券発行請求(215条4項)
(b)株券の交付のない株式譲渡の有効性
株式会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らし、株券発行前の株式譲渡の効力を否定するのを相当としない状況に至つた場合、株主が意思表示のみによつて株式を譲渡するときは、その譲渡は会社に対しても有効である。(最判昭和47年11月8日)
(イ) 譲渡制限関係
a 譲渡制限株式を譲渡する場合の手続
(a)譲渡等承認請求者による承認請求(136条、137条1項)
(b)譲渡等の承認の決定(139条1項)
取締役会設置会社は取締役会
取締役が譲受人の場合、特別利害関係人(369条2項)
(c)承認請求者への決定の通知(139条2項、なお(a)から2週間以内に行う必要(145条1号))
cf 株式会社又は指定買取り人による買取り
b 会社に対する承認請求をするか否か
株式譲渡契約
ウ Ⅹによる対抗措置
(ア) Yに協力しないようにBCDを説得
(イ) Ⅹがなりふり構わない行動に出た場合
a 議決権行使に関しBCDを買収しようとする
(a)会社財産から支出した場合
当然に利益供与(120条、970条)
(b)自らのポケットマネーから支出
利益供与に該当しない
株主等の権利の行使に関する贈収賄罪(968条)該当性
「実務的には、単に議事進行や会社提案の可決への協力を依頼すること自体は、不正の請託にあたらない」(江頭他「論点体系会社法6」第一法規506p)
b 明白な不法行為に出た場合
ⅩがBCDに対して「Yは会社財産の横領を繰り返している」等と言い回った場合。
(a)株主が取締役の違法行為差止請求権を有することを根拠として差止仮処分の申立て(360条1項、民事保全法23条2項)
①被保全権利の存在
「会社に著しい損害」など
②保全の必要性
(b)内容証明郵便等を用いた、不法行為に基づく損害賠償請求権行使の意思表示(民法709条)
(c)名誉権侵害に基づく差し止め請求権を有することを根拠とした差し止め仮処分の申立て
①被保全権利の存在
②保全の必要性
(2)Aについて
ア Aに対する説得,Aからの買取り
イ 成年後見手続きについて
(ア) 成年後見制度の趣旨
(イ) 手続
a 申立から開始まで
原則として精神鑑定必要
b 緊急性が高い場合
(a)審判前の保全処分として、財産の管理者の選任・後見命令等の申立て(家事事件手続法126条)
(b)財産の管理者が選任されるための要件
c 成年後見人又は財産の管理者の選任
本人の意思が確認できない場合 棄権も
ウ 大株主の高齢化対策としての任意後見契約の締結
(ア) 支配権獲得構想においてAの議決権をⅩが行使することの可否
利益相反取引行為については、任意後見監督人が行う(任意後見契約に関する法律7条1項4号)
(イ) Yの対抗策
a 利益相反行為に該当する旨の主張、任意後見人の解任請求(任意後見 契約に関する法律8条)等
b 対抗的成年後見申立ての可否
大阪高判平成14年6月5日
3 株主総会決議に関する問題点
(1)瑕疵
ア 招集手続に関する問題点
招集通知の発送(126条1項、2項、5項)
→株主名簿の不存在、名義書換の不当拒絶の存在等
イ 議決権の行使に関する問題点
(ア)名義株
株式の譲渡は、株主名簿の名義書換がなければ会社や第三者に対して対抗できない(130条1項)。
原始取得の場合:
会社の設立または新株の発行に伴い株式を原始取得した者は、株主名簿上の記載がなくても株式の取得を会社に対して対抗することができるし、会社ないしその代表者が株主であることを十分に承知し、そのとおりに処遇していたものであるなどの事情のもとにおいては、株主の原始取得者であるか、承継取得者であるかを問わず、株主名簿上の記載がなくても、株式の取得を会社に対して対抗することができると解すべきである。(東京高判平成4年11月16日)
(イ)相続により準共有が生じている場合
a 原則
権利行使者の通知がなければ、権利行使不可(106条)
b 例外
株式会社が権利行使に同意した場合は権利行使可(106条ただし書)
(2)総会検査役選任申立について(306条1項)
ア 選任の目的
(ア) 証拠保全目的
→事後に株主総会決議取消の訴え等が提起された場合、総会検査役の報告書(306条5項)が証拠として有用
(イ) 違法抑止目的
イ 費用
検査役の報酬は、株式会社の負担(306条4項)
ウ 手続の流れ
エ 総会検査役の権限
4 その他~情勢が不利なことが明らかになった場合の対応策~累積投票制度の活用~
(1)手続き(342条2項)
(2)具体例
Ⅹ側40%、Y側50%(%=持株数とする)
ア 瑕疵や提案の議案(候補者XYZ)と株主提案の議案(候補者YPQ)を個別審議
→ YPQが選任
イ 取締役1人ずつに投票し、得票数の多い方から2人選任する場合
→ YPQが選任
ウ 累積投票制度を用いる場合
→ Ⅹ側120票、Y側150票 合計270票
270÷4=67.5
68票とればⅩは確実に選任される
(3)累積投票制度利用の効果
累積投票で選任された取締役を解任するには特別決議が必要(339条2項、309条2項7号)
第2 支配権争いが一旦決着した後の対応(時間が余れば)
1 概要
2 中小企業と手続瑕疵に対する攻撃(「とにかく何か抵抗した」場合など)の妥当性
3 取締役解任の訴え(854条)
4 取締役への損害賠償請求(423条等、代表訴訟(854条))
5 退職金支払請求・退職金不当減額による損害賠償請求(361条)
6 競業避止義務・秘密保持義務
以上