埼玉企業法務研究会トップページ > 活動報告 > 2018年度 >2018年9月14日発表
第1 事業再生とは何か
Ⅰ.会社分割総論
1.会社分割の目的:
(1)M&A
①会社分割のみで完結
②会社分割後に株式譲渡
(2)グループ内再編
(3)許認可の取得
2.適格分割と非適格分割:
(1)税務処理についての比較
(2)適格分割の要件緩和(平成29年10月の税制改正)
(注)適格判定には、上記以外にもいくつかの要件(e.g. 対価要件など)をクリアする必要があります。
→M&A目的での会社分割がしやすくなった。
3.会社分割と事業譲渡の比較:
(1)承継について
|
事業譲渡 |
会社分割 |
|
契約の承継 |
契約相手方の同意が必要 ※実務上は、事業譲渡の挨拶状などで済ませることも多い |
契約相手方の同意は不要 ※会社分割による承継を禁止等する旨の規定があれば、契約相手方から解除の主張がされる可能性あり ※実務上は、契約相手方は債権者に該当することが多いので、債権者異議手続をとることになる。 |
|
従業員の承継 |
従業員の同意が必要 |
従業員の同意は不要 ※承継事業に「主として従事している従業員」については、異議を申し出たとしても承継される。 ※労働者保護手続あり(Ⅱの2で詳述) |
|
資産の承継 |
原則 |
当事者間の合意のみで可 |
当事者間の合意のみで可 |
著作権 |
当事者間の合意のみで可 (対抗要件として登録制度有) |
当事者間の合意のみで可 (一般承継であるため登録なく対抗可) |
|
特許権 |
登録が効力発生要件 |
登録は効力発生要件ではない (事後に遅滞なく届出をすれば足りる) |
|
債務の承継 |
債権者の同意が必要 |
債権者異議手続が原則必要(Ⅱの4で詳述) |
|
許認可の承継 |
原則承継されない(一部例外あり) |
原則承継されない(一部例外あり) |
(2)手続について
|
事業譲渡 |
会社分割 |
株主総会決議 |
事業の重要な一部の譲渡は、特別決議 ※総資産の5分の1以下(簡易事業譲渡)であれば不要 |
特別決議 ※総資産の5分の1以下(簡易分割)であれば不要 |
反対株主の 買取請求権 |
原則的にあり ※簡易の場合は無し |
原則的にあり ※簡易の場合は無し |
書類の備置 |
不要 |
要 |
(3)まとめ
|
事業譲渡 |
会社分割 |
関係者の同意を 要する場面 |
多い |
少ない |
法律上の手続 |
少ない |
多い |
Ⅱ.会社分割手続の流れ(吸収分割を例に)
1.吸収分割契約の締結〔会社法758条〕【資料1】:
(1)必要的記載事項
①商号及び住所〔同条1号〕【資料1 第2条】
前文に記載するパターンと、独立した条項とするパターンあり。
②効力発生日〔同条7号〕【資料1 第3条】
会社分割+株式譲渡のタイプのM&Aでは、クロージング日を考慮しつつ、効力発生日をいつにするかを入念に検討
③承継する(資産、債務、雇用契約その他の)権利義務〔同条2号〕
【資料1 第4条・別紙】
(ア)不動産を承継する場合は必ず明記。
(イ)対象事業に含まれるかが曖昧な資産は明記するのが無難。
④分割会社または承継会社の株式の承継〔同条3号〕
自己株取得や自己株処分が通常よりも容易。契約書に記載さえすればよい。
⑤分割対価〔同条4号〕【資料1 第5条】
適格分割の要件にも係わるので、税理士の助言のもと慎重に検討。
無対価も可。
⑥分割会社の新株予約権者に対して交付する承継会社の新株予約権〔同条5号・6号〕
ストックオプションの場合など。
⑦人的分割〔同条8号〕
(2)任意的記載事項
①株主総会【資料1 第7条】
(ア)開催時期
(イ)開催不要ならその旨
②効力発生日までの行為
(ア)善管注意義務【資料1 第8条】
(イ)他の組織再編行為
(ウ)募集株式の発行
など
③競業避止義務【資料1 第9条】
株式譲渡契約で別途定めることもある
(3)作成する通数【資料1 末文】
2.労働者保護:
(1)労働者の理解と協力を得るよう努める措置
(2)労働者との個別協議等の手続
(3)労働者・労働組合への通知
(4)労働者の異議
〔参照法令〕○商法等の一部を改正する法律(平成12年法律第90号)附則第5条
○会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律
○同法施行規則
3.事前開示〔会社法782条・794条〕:
4.債権者異議手続〔会社法789条・799条〕:
(1)公告【資料2-1】
効力発生日から逆算して手配
(2)債権者への個別催告【資料2-2、資料2-3】
(ア)効力発生日から逆算して発送
(イ)法人向けと個人向け
5.株主総会決議:
(1)原則開催〔会社法783条・795条〕
(2)簡易分割・略式分割の場合は不要〔会社法784条・796条〕
6.種類株主総会〔会社法322条〕:
必要があれば開催
7.株式買取請求権・新株予約権買取請求権〔会社法785条・787条・797条〕:
効力発生日
8.登記〔会社法923条〕(Ⅲで詳述):
9.事後開示〔会社法791条・801条〕:
Ⅲ.会社分割の登記
1.会社登記:
(1)添付書類
①吸収分割契約書【資料1】
②株主総会議事録(両社分)
③株主リスト(両社分)
④官報(公告を証する書面として)【資料2-1】
⑤個別催告書【資料2-2】
⑥異議を述べた債権者が居なかった旨の上申書
or債権者に対し弁済・担保提供をしたことを証する書面
など
(2)会社分割手続中の本店移転の可否
(3)会社分割後の登記【資料3】
2.不動産登記【資料4】:
(1)申請可能時期
会社分割登記の完了後
(2)甲区(所有権に関する事項)の登記
(ア)住所・名称の変更(登記簿上の記載から変わっている場合のみ)
(イ)所有権移転
(3)乙区(所有権以外の権利に関する事項)の登記
(ア)住所・名称の変更(登記簿上の記載から変わっている場合のみ)
甲区とは別に申請が必要【資料4 最終ページ付記2号】
(イ)根抵当権の債務者が会社分割を行った場合
→分割会社と分割承継会社の共用根抵当権となる
(i.e. 債務者欄に両社が連記される)〔民法398条の10第2項〕
【資料4 最終ページ付記3号】
→金融機関が分割承継会社に対し効力発生日前から有していた債権は、当該根抵当権では担保されない。
そのため、当該債権も被担保債権に加えたいという金融機関の要請で、債権の範囲にその旨を追加することもある。【資料4 最終ページ付記4号】
→分割会社をM&Aにより売却するのであれば、分割会社を債務者欄から消しておく必要がある。
根抵当権者と設定者(不動産所有者たる分割承継会社)との合意により、債務者を1社単独に変更する(i.e. 債務者欄に2社連記された状態から、分割承継会社のみが記載された状態に変更する)。【資料4 最終ページ付記5号】
3.登記に要する期間:
効力発生
会社登記
(分割会社と分割承継会社の管轄登記所が異なる場合は、同一登記所の場合よりもやや長くかかる)
会社登記の完了後
不動産登記
(不動産が複数の管轄登記所に散在している場合は、管轄登記所ごとに申請が必要)
効力発生日から登記完了までの期間を考慮してクロージング日を設定
(注)登記申請中は、印鑑証明書や登記事項証明書の取得が不可となる。
以上