埼玉企業法務研究会トップページ > 活動報告 > 2019年度 >2019年4月25日発表
労働者災害補償(弁護士 丸山博久)
第1 総論
1 労働者災害補償
・労働基準法 第8章
労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかった場合においては,使用者は,療養補償(労基法75条),休業補償(労基法76条),障害補償(労基法77条)を行わなければならない。
労働者が業務上死亡した場合においては,使用者は,葬祭料の支払(労基法80条),遺族補償(労基法82条)を行わなければならない。
→被害の迅速・簡易な回復を図ることが目的
・使用者の無過失責任
ただし,使用者に支払能力がない場合には,実効性がない
・ 補償は,療養補償を除き平均賃金に対する定立によって算出
・補償の履行について,行政官庁の指導,罰則がある。
2 労働者災害補償保険
労働者災害補償保険法第1条
「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」
→①業務災害又は通勤災害による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対する保険給付
業務災害の補償に加え,通勤災害についても,業務災害とほぼ同等の補償を行う。
仕事による負傷等 → 業務災害 → 労災保険
通勤による負傷等 → 通勤災害 → 労災保険
その他の原因による負傷等 → その他の災害 → 健康保険
健康保険法第55条1項
「被保険者に係る療養の給付・・・は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法・・・によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。」
→②業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進
第2 保険の仕組み
1 強制適用事業
原則として,労働基準法で規定する労働者を1人でも使用する会社には,強制的に適用される(労働者災害補償保険法3条)。
→使用者が労災保険料を支払っていなくても,当然に労災保険の適用を求めることができる。
★事業主には遡求徴収+保険給付に要した費用の全額又は一部負担の可能性
2 使用者負担の原則
労災保険料は,一部の国庫負担を別として,原則として,使用者の全額負担となっている。
第3 保険給付の概要(業務災害を中心に)
1 療養保障給付(労働者災害補償保険法13条)
指定病院等で治療や薬剤の支給等を現物の給付として受ける「療養の給付」と「療養の給付」をすることが困難な場合等に「療養の給付」に変えてその費用を現金の給付として受ける「療養の費用の支給」がある。給付は,治癒又は死亡により,療養を必要としなくなるまで行われる。
・療養の範囲(労働者災害補償保険法13条2項)
診察,薬剤又は治療材料の支給,処置・手術その他治療,居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,移送
・治癒
「症状が安定し,疾病が固定した状態にあるものをいうのであって,治療の必要がなくなったもの」
→傷病の症状が,投薬・理学療法等の治療により一時的な回復がみられる場合にすぎない場合など,医療効果が期待できないと判断される場合には,労災保険では,「治癒」となる。
・アフターケア制度
労災保険の社会復帰促進等事業の一環として,せき髄損傷,頭頸部外傷性症候群,慢性肝炎等の傷病に罹患した者に対して,治癒後においても,予防その他保険上の措置として診察,保健指導,保険のための薬剤の支給等が実施されている。
2 休業補償給付(労働者災害補償保険法14条1項)
療養のために労働することができないときに,賃金を受けない日の第4日目から支給される給付。なお,賃金を受けない日については連続・断続にかかわらない。
・休業補償給付がされない3日間については,使用者は,労基法に基づく休業補償を行う必要がある。
・賃金を受けない日
事業主から支払われる賃金が,平均賃金からその日の労働時間に応じて支払われる賃金の額を控除した額の100分の60に相当する額未満の日。
・給付の額
給付基礎日額の100分の60に相当する額
「給付基礎日額」
原則:業務上の負傷や死亡の原因である事故が発生した日又は診断によって業務上の傷病の発生が確定した日に直前3か月間にこの労働者に支払われた賃金の総額を,その期間の暦日数で除した額
・休業特別支援金
社会復帰促進等事業として,保険給付である休業補償給付に上乗せして,休業補償給付の対象とbなる日について,給付基礎日額の100分の20に相当する額が支給される。
3 傷病補償年金(労働者災害補償保険法12条の8第3項)
負傷又は疾病に係る療養の開始後1年6か月を経過した日又はその日以降に次いずれにも該当することとなったときに,その状態が継続している間,支給される。
① 負傷又は疾病が治っていないこと。
② 当該負傷又は疾病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること。
・休業補償給付との関係
傷病補償年金を受ける場合は,休業補償給付は支給されない。
・給付の額
傷病等級に応じて,給付基礎日額を元に算出される。
・特別支給金
社会復帰促進等事業として,傷病補償年金に上乗せして,傷病特別支給金(一時金)及び傷病特別年金が支給される。
傷病特別年金は,傷病東急に応じて,算定基礎日額を元に計算される。
「算定基礎日額」:算定基礎年額を365で除した額
「算定基礎年額」
原則:業務上の負傷や死亡の原因である事故が発生した日又は診断によって業務上の傷病の発生が確定した日以前1年間に支給された特別給与の総額
例外:原則で算出した額が下の金額より高いときは,下の額のうち低い額
①「給付基礎日額×365日×20%」
②「150万円」
・打切補償との関係
労働基準法19条
使用者は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間…及びその後30日間は,解雇してはならない。ただし,使用者が,第81条の規定によって打切補償を支払う場合…は,この限りでない。
労働基準法81条
補償を受ける労働者,療養開始後2年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては,使用者は,平均賃金の1200日分の打切補償を行い,その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
労働者災害補償保険法19条
業務上負傷し,又は疾病にかかった労働者が,当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には,労働基準法第19条第1項の規定の適用については,当該使用者は,それぞれ,当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、同法第81条の規定により打切補償を支払ったものとみなす。
4 障害補償給付(労働者災害補償保険法15条1項)
治癒した後に,一定の障害が残っているときに,傷害の程度に応じて年金又は一時金が支給される。
・給付の種類
障害等級が第1級から第7級に該当するときは「障害補償年金」として,年金が,障害等級が第8級から第14級に該当するときは「障害補償一時金」として一時金が支給される。
障害等級認定基準については,「労災補償 障害認定必携」(労災サポートセンター)を参照
・給付の額
障害等級に応じて,給付基礎日数を元に算出する。
・特別支給金
社会復帰促進等事業として,障害補償給付に上乗せして,障害特別支給金(一時金),及び,障害特別年金又は障害特別一時金が支給される。
障害等級に応じて,算定基礎日数を元に算出する。
5 遺族補償給付(労働者災害補償保険法16条)
労働者が死亡したときに遺族補償年金又は遺族補償一時金が遺族に支給される。遺族補償一時金は,遺族補償年金を受ける遺族がいない場合等に支給される。
・遺族補償年金の受給資格者
労働者の配偶者,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹で,労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた者。
ただし,妻以外の者については,労働者の死亡時,一定の要件に該当する場合に限られる。
・給付の額
遺族補償年金は,遺族の人数に応じて,給付基礎日数を元に算出する。
遺族補償一時金は,原則として給付基礎日数の1000日分
・特別支給金
社会復帰促進等事業として,遺族補償給付に上乗せして,遺族特別支給金(一時金),及び,遺族特別年金又は遺族特別一時金が支給される。遺族特別年金は,遺族の人数に応じて,算定基礎日数を元に算出する。遺族特別一時金は,原則として算定基礎日数の1000日分
6 葬祭料(労働者災害補償保険法17条)
労働者が業務上死亡したときに,葬祭を行う者の請求に基づいて支給される。
遺族以外の者でも葬祭を行う者となることがある(会社が葬祭を主催したとき等)。
7 介護補償給付
障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が,その受ける権利を有する障害補償年金又は傷病補償年金の支給事由となる障害であって厚生労働省令で定める程度のものにより,常時又は随時介護を要する状態にあり,かつ,常時又は随時介護を受けているときに,当該介護を受けている間,支給される。
8 二次健康診断等給付
一次健康診断の結果,①血圧の測定,②血中脂質検査,③血糖検査,④腹囲の検査又はBMIの測定のいずれの項目にも異常の所見があると診断されたときに支給される。