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活動報告Activity Report

埼玉企業法務研究会トップページ > 活動報告 > 2019年度 >2019年9月20日発表

生活保護(弁護士 高野哲好)

第1 生活保護の原理・原則
• 生存権保障 → 国に、向上・増進義務(憲法25条)
  



• 「最後のセーフティネット」?
労働 > 雇用保険 > 第2のSN > 生活保護
非正規拡大2017年37.3% 受給割合2割 貸付中心
• 4つの原理
国家責任、無差別平等、最低生活保障、補足性
• 4つの原則
申請保護、基準・程度、必要即応、世帯単位
• 居宅保護の原則 >ホームレスの人の保護

福祉事務所
• 保護の実施機関(生活保護法19条)
都道府県知事、市長、福祉事務所を管理する町村長
• 都道府県、市は、福祉事務所設置義務(社会福祉法14条)
• 所員の定数は条例で定める(社会福祉法16条)
• 標準数 市は80世帯ごとに1名
• 社会福祉主事資格(社会福祉法19条)

最近の動向
• 2012年8月 社会保障制度改革推進法成立
• 2013年8月 生活扶助基準引下げ
• 2014年7月 改正生活保護法本体部分施行
• 2015年4月 生活困窮者自立支援法施行
生活扶助基準引下げ(経過措置終了)
• 2015年7月 住宅扶助基準引下げ
• 2015年11月 冬季加算引下げ
• 2018年6月 改正生活保護法成立
• 2018年10月 改正生活保護法本体部分施行
生活扶助基準、母子加算等引下げ

第2 生活保護の要件
① 日本人または一定の範囲の外国人
② 保護を要する状態であること(要保護性)
③ 申請がなされたこと         ← 水際作戦
④ 能力・資産活用をしていないといえないこと
                   ← 虚偽説明
(③’’ ③④に代えて急迫状態であること)
→これ以外の項目は要件ではない

1 国民または【一定の範囲の外国人】




                       ※生活保護法は、以下「法」という。
• 「行政措置」として定住外国人のみを保護
• 類別
 不法滞在の外国人
最高裁平成13年9月25日判決  消極
 定住外国人
認定難民、永住者等(別表第2)、特別永住者
最高裁平成26年7月18日判決  消極
>争う手段はあるか? 「行政措置」の処分性
(月報司法書士2015年5月号) 当事者訴訟の活用
>日本人の世帯員がいる場合
 合法滞在、非定住外国人
人道上やむを得ない場合に保護される事例

2 要保護
• 要保護状態とは、当該世帯の保護基準(公権的に判断される最低生活費)が認定収入を上回った状態をいう。
• 要素
① 世帯 ⇒評価が入ってくる
② 保護基準
③ 認定収入

(1)世帯単位の保護



• 世帯認定 法10条
同一居住(例外あり)、同一生計(次官通知)
• 世帯分離 法10条但書   「やむを得ない事情」(局長通知第1の2(1))
① いわゆる怠け者がいるが他世帯員を保護する必要がある場合
② 元の世帯員と転入者との関係でどちらかを保護する場合
③ 寝たきり老人等が保護を要し、他世帯員の保護を要しない場合
④ 居宅者と入院入所者との関係でどちらかを保護する場合
⑤ 結婚・転職等で別世帯となる予定の者がいる場合
⑥ 大学修学者がいる世帯で、大学修学者以外の世帯員を保護する場合
など(それぞれに一定の要件がある)

(2)保護基準
保護費の体系(法11条)
生活扶助・住宅扶助・教育扶助・医療扶助
介護扶助・生業扶助・出産扶助・葬祭扶助
級地 1-1(さいたま市、川口市)、1-2(所沢、蕨、戸田、朝霞、和光、新座)、2-1(川越、熊谷、春日部など)〜 3-2 の6級地
2013〜2015年生活扶助基準引下げ
2018〜2020年生活扶助基準引下げ

(3)収入認定 収入がある場合は差し引いて支給
• 稼働収入のある場合
各種控除、実費控除がある
• それ以外の収入の場合
典型 〜年金、手当
認定除外の例(自治体の手当等)
借入れの認定除外と償還金の経費認定 ・高校生の収入の取扱い
【稼働収入】
収入として認定しないもの
高等学校等就学費で賄いきれない就学の経費(手帳370頁)
(私立学校の授業料不足分、修学旅行費、クラブ活動費など)
基礎控除(1人目)
1万5200円まで全額控除
5万円で1万8400円控除
10万円で2万3600円控除
未成年者控除 1万1400円

3 申請
(1)申請権者、申請すべき福祉事務所




• 申請権者 「要保護者(本人)、その扶養義務者又はその他の同居の親族」である(法7条)。だれも申請できないときは、第三者通報等を受けて職権保護となる。
• 申請すべき福祉事務所(実施責任)は、居住地を管轄する福祉事務所である。申請者が居住地を有しないときは、現在地を管轄する福祉事務所となる。(法19条)
• 居住の事実は、訪問調査により把握するので、住民登録の有無は関係ない。だから、住民登録がないからという理由で保護を利用できないということはない。
• 現在地とは、継続的に生活を営む場所がない者が現在している所在地である。対象として、いわゆるホームレスの人々、住居を失った者を想定している。だから、ホームレス状態であることで保護を利用できないということはない。
• 外国人の場合、住民登録地以外では保護が受け付けられない。DV被害外国人の不利益が大きい。
• 東日本大震災の被災者「当該居住事実がある場所を所管する実施機関が実施責任を負い居住地保護を行う」
• 申請代理の問題(別冊問答集359頁)

(2)申請の方法
◯ 申請は、要式行為ではない。
◯ 保護の申請は申請意思さえ明確であればよいから、口頭の 申請でも足りる。ただし、裁判例※1では「申請意思が客観的に明確」であることが要求されたが、※2で生活困窮状態などの間接事実から推認されるようになった。
※1 生活保護申請権訴訟 大阪高裁判決(2001・10・19)
※2 三郷事件 さいたま地裁判決(2013・2・20)
◯ 改正法で書面を要求 ⇒要式行為化?
• 申請書の記載事項
• 添付書類の法定化(法24条)
申請援助義務
補正を求める「義務」(行政手続法7条)

(3)申請援助義務 すべての国民に保護を申請する権利がある。
申請は援助されなければならない。
小倉北区自殺事件 福岡地裁小倉支部判決(2011・3・29、確定)
三郷事件 さいたま地裁判決(2013・2・20、確定)
【平成20年度実施要領改正により追加】
次第9 生活保護は申請に基づき開始することを原則としており、保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより、申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと。
【平成26年7月施行の改正生活保護法施行規則1条2項】
保護の実施機関は、法第24条第1項の規定による保護の開始の申請について、申請者が申請する意思を表明しているときは、当該申請が速やかに行われるよう必要な援助を行わなければならない。

(4)申請に対する応答義務
• 生活保護の申請により、福祉事務所には、申請に対して応答(開始決定又は却下決定)する義務、その応答につき通知する義務(改正法24条3項)が生ずる。
• その通知は、決定の理由を付さなければならない(同条4項)。
• また、申請のあった日から【14日以内】に通知しなければならない(同条3項本文)。特別な理由があって通知が遅延する場合には、その理由の合理性、その理由の通知への記載、申請のあった日から【30日以内】に通知がなされたことによって違法性が阻却される(同項但書)。
• 当座の生活費や食料もなく生活ができない、すなわち急迫状況では【すみやかに】開始しなければ違法である(法25条1項)。

(5)職権保護(急迫保護) • 保護を要する者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な
保護ができ、かつ、しなければならない(法7条但書、25条1項)。
• 急迫状況とは、「社会通念上放置できない状態」
• 急迫状況の判断要素(生活保護法施行細則準則について 面接記録票の様式改正2009)
① 預貯金・現金等の保有状況
③ ライフラインの停止・滞納状況
④ 国民健康保険等の滞納状況

4 補足性







(1)稼働能力の活用
• 3要素説 ① 稼働能力の有無
② 稼働能力活用の意思(真摯な努力?)
③ 稼働能力活用の場
• 新宿七夕訴訟判決(東京地裁平成23年11月8日判決、東京高裁平成24年7月18日判決、確定)
① 「稼働能力活用の意思」について客観判断であること
② 真摯な努力まで要求されないこと
③ 稼働能力活用の場は具体的環境の下で判断するものであることなどを指摘しており、厚労省処理基準や先例の林訴訟高裁判決を否定
• その後の長浜事件、那覇事件、岸和田事件、静岡事件でも原告側勝利

(2)資産の活用
ア 現金・預貯金
• 違法な対応「所持金がなくなってから来なさい」
• 現金及び預金については、当面の生活維持・向上のために、生活保護申請時において、その世帯の1か月の生活基準額の2分の1の現預金が保有容認されて、収入認定されない。
• また、生活保護受給継続中に保護費を原資とした預貯金は、法の目的趣旨に反せず(積極的な理由は不要)、よほど高額でない限り、収入認定・資産活用の対象とはならない。
→ただし、資産申告が定期的に求められるようになった
※加藤訴訟 秋田地裁判決(平成5年4月23日)

イ 居住用不動産
居住用不動産は、原則として保有が認められる。
ただし、例外の範囲が広い。
① 高額な不動産の所有
標準3人世帯の生活扶助基準額に同住宅扶助特別基準額(+医療費自己負担分)を加えた額の10年分を超える処分価値があるかなどを基準に、ケース診断会議で判断して、処分指導をされる。
② 住宅ローン付不動産
原則として申請却下。ただし、住宅ローン残額が僅かであったり、支払を繰延べしている場合には、例外の例外として保有を認められることもある。
③ リバースモーゲージの活用
65歳以上の高齢者を対象に、評価額が500万円以上の不動産(戸建住宅は土地のみで評価)を有する場合。ただし、急迫保護は可能である。

ウ 自動車
• 自動車は、原則として保有を認められない。
• 例外は限定的であり、実質的に保護か自動車かという選択を迫られる。
• 障害者が自動車により通勤等をする場合と、地理的条件などが悪い地域に居住する者等が自動車により通勤する場合が例示されており、自動車は処分価値の大きくないものに限定されている。
• 6か月以内に保護からの脱却の可能性が認められる場合、処分指導を留保。ただし、自動車の利用は、交通不便な地域での求職活動での利用に限定。

エ 生命保険
• 資産性を有する保険類については、処分価値が小さく、保険料負担が生計を圧迫せず、自立更生に役立つものについては保有が認められ、処分を要しない。
• 解約返戻金相当額が「30万円以下又は最低生活費の概ね3か月分」。
• 学資保険の場合、保有を認められる場合の解約返戻金は50万円以下とされる。

オ 公的年金担保貸付
• 「過去に年金担保貸付を利用するとともに生活保護を受給していたことがある者が再度借入をし、保護申請を行う場合には、資産活用の要件を満たさないものと解し、それを理由とし、原則として、保護の実施機関は生活保護を適用しないこととする。」
• 例外的に保護が適用できる場合として、
① 急迫状況にあるかどうか
② 保護受給前に年金担保貸付を利用したことについて、社会通念上、真にやむを得ない状況にあったか否か
※2022年3月末でWAM(独立行政法人福祉医療機構)年金担保新規貸付終了
5 扶養は保護の要件ではない
• 扶養は生活保護に優先して行われるが(法4条2項)、保護利用の要件ではない。
• 福祉事務所は、保護の決定・実施のために必要があるときは、扶養義務者の資産・収入の状況について調査する権限を有する(法29条)。改正法では、調査先自治体に対して課税情報の回答義務を課すことを可能にしている(ただし、省令で除外)。
• 扶養義務者に対する調査の範囲を限定する方向で通知されており、①生活保持義務関係のように援助の必要性が高い場合、②これまで援助していたなど援助の可能性がある場合以外は、扶養照会を省略してよいこととなっている。
• 扶養強化と憲法24条改正は何をもたらすか? 韓国の例

第3 法63条に基づく費用償還請求権と78条に基づく費用徴収請求権











1 法63条
(1)法的性質
不当利得返還請求権
(2) 返還の範囲
・世帯の自立更生を考慮した返還免除が柔軟に認められる(問答集問13-5【資料18頁】)
・安易な全額返還決定に警鐘を鳴らす判例多数
(3) 破産手続きとの関係
・「租税等の請求権」(破産法253条1項1号)にあたらないことは厚労省も認めるところであり(別冊問答集問13-7)、その他の非免責債権(破産法253条1項2~7号)にもあたらない。
→免責決定の効力は当然及ぶ。
・財団債権たる「租税等の請求権」(破産法148条1項3号)ではなく一般破産債権として取り扱われる。
→申立前の返済は偏波弁済として否認対象行為となるので(破産 法162条1項2号)、してはならない。
2 78条
(1)法的性質
不法行為債権
(2)返還の範囲
・文言上「全部または一部」とあるが実務上免除が認められる余地はない。
・平成25年改正によって、1.4倍の加算金が課される余地もある。
(3)破産手続きとの関係
・25年改正後
(平成26年7月1日以後に支弁された保護費に関して)
→「国税徴収の例により徴収することができる」(法78条4項)とされ「租税等の請求権」に該当することに なったため非免責債権化された。
→免責決定を受けても返済義務を負う。事前に弁済しても 否認対象となる偏頗弁済にもあたらない。

3 63条債権と78条債権の区別の基準
効果の大きな違いから両者の区別が重要であり、特に78条の適用は慎重に行われる必要がある。
(法78条によることが妥当な場合)※別冊問答集問13-1
(a)届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらずそれに応じなかったとき。
(b) 届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき。
(c) 実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき。
(d) 課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書又は資産 申告書が虚偽であることが判明したとき。
(※27年にこっそり追加されたが悪意を前提と解すべき)
4 高校生のアルバイトに対する78条処分

第4 生活保護の法的支援-審査請求・訴訟、再申請-
• 再申請、仮の義務付け
• 審査請求
審査請求前置
処分を知った日から3か月以内(行政不服審査法3か月)
みなし却下処分  申請から30日経過(法24条7項)




• 取消訴訟その他
取消訴訟
義務付け訴訟
国家賠償請求訴訟

(1)審査請求のポイント-不利益処分に向けての手続- *通知書の理由不備
*書面による指導指示で本人が実行可能な指示になっているか
*法の求める弁明の機会の付与(法62条4項)がなされているか
*比例原則

第5 法テラス委託援助事業の活用
① 相談場所の要件 指定相談場所~OK
② 対象者
ⅰ 高齢者
ⅱ 障害者
ⅲ ホームレス
ⅳ ⅰ~ⅲに準ずる者(病者,不安定住居等)適法な理由によらず申請を拒絶された者
※ 多くの場合,ⅳにより該当すると思われる。
③ 資力要件 ~要保護であれば問題にならないだろう

第6 基本的な援助の姿勢
①保護申請権は、すべての国民が有する
②保護の要件と関係のないことで申請を拒絶されていないか
③福祉事務所の説明によって、当座の生活が不可能、著しく困難であれば、その説明が違法である疑いを抱く(福祉事務所は説明義務を果たしているかの視点)
④資産・能力の活用が不十分でも急迫状態であれば、保護は可能であり、義務的である(法4条3項、25条)


参考文献
  生活保護手帳
  生活保護手帳別冊問答集



埼玉企業法務研究会

(Saitama Corporate Legal Affairs Association)